今年のポルトガルでの研究(Areias, J., Gato, J. & Moura-Ramos, M. Motivations and Attitudes of Men Towards Sperm Donation: Whom to Donate and Why?. Sex Res Soc Policy 19, 147–158 (2022). https://doi.org/10.1007/s13178-020-00531-0)ですが、精子提供の動機について心理テスト(NEO-FFI、Interpersonal Reactivity Index、Schwartz’s Values Scale)を用いてポルトガル国内の282人の精子提供者の動機と身元開示に対する姿勢をまとめた論文です。精子提供者としては面白い話題なので紹介します。
まず動機についてですが金銭的な見返りを求めて精子提供を行う提供者はほとんどいないという点が重要かもしれません。この点は誰か、特に同性愛や独身など通常は挙児が難しい事情の女性が子供を持つ夢を叶えるための人助けを考えている提供者が統計的に非常に有意(p < 0.001, ηp2 = 0.12)な水準で多いということが興味深いです。若年で(心理テストでは)理知的に考える傾向のある男性は「よい」遺伝子を次代に引き継がせ、子孫を確保したいという同期も比較的強くあるようです。この点は当提供者もある程度当てはまるかもしれません。
ポルトガルのことでありもちろん日本とは国民性は大きく異なると思いますが、やはり日本では精子提供は悪意と好奇の目をもって報道されることが大半でしょう。一方で実際には多くの提供者が善意で提供に臨んでいることも考えられます。日本でも精子提供にもう少し善意で捉える報道が増えれば、どうしても高齢化する日本の社会としても子供を持つ様々な機会に寛容になれるのではないか、という気もします。
次に提供の形式としては全体的には匿名での精子提供が好まれるようですが、個人特定につながらない範囲の情報開示であればほとんどの提供者が同意しているとのことで基本的にはトラブルにならないのであれば身元の開示には積極的な提供者が多いということのようです。若干古い報告では同性愛やバイセクシャル男性のほうが開示には積極的(Freeman, T., Jadva, V., Tranfield, E., & Golombok, S. (2016). Online sperm donation: a survey of the demographic characteristics, motivations, preferences and experiences of sperm donors on a connection website. Human Reproduction, 31(9), 2082–2089. https://doi.org/10.1093/humrep/dew166.)という報告もありますが本研究では男性の性的嗜好の違いは匿名性に対する姿勢とは関係がなかったようです。
また、提供の対象となる女性の性質としては異性愛者でありかつ不妊の女性に対してのものが提供者の姿勢としては最もポジティブな態度で提供に臨むようです。精子提供に否定的な考え方としては、宗教的価値観(この場合はカトリックを指していると考えられますが)が加わると精子提供に対する姿勢は否定的になりがちなようです。
以上のことについては下の統計表に記載の通りです。概ね実態と一致している妥当な研究なのではないでしょうか。一部のトラブルを取り上げて精子提供をグレーな活動とするのではなく、もっと実態に照らしてこのような客観的分析姿勢を持つことが少子化が急激に進む一方の本邦でも(もし性に対して情緒過剰な国民性を乗り越えて科学的に可能であるならば)大事なことでしょう。