現在、一年間正常な性交渉のあったカップルは99%の確率でお子様を授かることができると言われています(逆に一年で妊娠に至らなかった場合は不妊となります)。ですがこれは毎月適切なタイミングでの性交渉があったという前提の上の議論です。 その上、提供者はパートナーとは異なり生活を共有しているわけではありません。実際にお会いできるのは現実的には月1、2回程度になります。
そして精子提供への意思が固まるのは妊娠・出産の適齢である20代後半からは外れた30代後半のことが(世界的に見ても)多く、ほとんどは簡易なのと引き換えに条件がそれほど良くないシリンジ法です。ましてそれが排卵期と一週間ずれた時期、ということになれば受精から着床までの一連の過程が滞りがなく進む、という幸運はほぼ起こりません。つまりあまり意義がなかったということになります。したがって、提供するにあたっては排卵日をある程度正確に予測することが一回一回の成功率を着実に上げるためにぜひ必要なことです。
では、どういった予測法が現実的に有効なのか、という話になります。基礎体温を測定してパターン化するということは一つの方法です。ただ、体温のセットポイントを上昇させるのはEstrogenというホルモンであり、これは黄体、つまり排卵後の卵胞から放出されるものです。ですから、基礎体温が上昇した時点ではすでに排卵後ということになります。そもそも生理的な指標の感度はそれほど高くないのが普通なので、パターンをつかむ意味はあるものの基礎体温はある程度の目安程度に利用するのが適切ではないでしょうか。
予測のために一番簡便かつ普及しているのが、市販の排卵日予測キットかと思います。これは尿中のLuteinizing hormone(LH)を測定している場合がほとんどです。卵胞期に徐々にエストロゲンが上がり始め、一定濃度(200 pg/ml程度)を超え50時間程経つとLHが一気に放出されます。これをLHサージといいますが、このLHサージの24時間後に排卵が生じます。夜間から朝に生じることが多いので、じんわりと陽性の反応が出始めたらその日にうちに提供を受けに来ていただくというのがよいかと思います。ただしサージのパターンには個人差がありますし、サージがあったからと言って必ずしも排卵があるわけでもないことには注意が必要かもしれません。
一番確実なのが経腟エコーによる主席卵胞の計測でしょう。以下の画像にあるように卵胞の状況を直感的に把握することができます。
Bioengineering & Translational Medicine, Volume: 2, Issue: 3, Pages: 238-246, First published: 25 February 2017, DOI: (10.1002/btm2.10058)
これはもちろん侵襲的で、不便な上に費用が掛かりますから一般的な方法とは言い難いです。ですが、以下の画像にあるように卵胞の成長(時間を追ってc-f-iの順)を排卵前から黄体形成まで直接卵胞径を観察できる上に、a-d-gのように子宮内膜の性状までわかります。ですから、ここにLHサージによる内分泌からのアプローチと組み合わせることで排卵時に確実に精子が卵管内で待機している状況を高頻度に作っていくことができると思います。
もちろん確実に28日ないし35日周期だとわかっている場合にはエコーまで用いる必要はないかもしれませんし、どこまで一周期に労力をかけるかも考え方によると思うので必ずしも必要なことではないと思います。これ以外にも現実的に実行できて有効だと思われる方法はいくつもあるので、また紹介していければと思います。