不妊治療に際して、従来重視されるのは妊娠が確立するか否かという点です。しかし最終的に治療が奏功したかどうかは生児を得られるか否か、で評価する向きもありとりわけ妊娠が困難であったケースでは流産は当然大きなショックになります。一方でどういった介入が流産率を減らすのに有意な効果があるかはあまり検証されていません。

医学的に一般に非常にエビデンスのレベルが高い(一般人口での再現性が高い)Randomized Controlled Trialやそれをさらに統計的に分析したメタ解析から効果があると見込まれる手法を分析した今年の論文がありましたので簡単にここで紹介したいと思います。(Ashleigh Holt-Kentwell, Jayasish Ghosh, Adam Devall, Arri Coomarasamy, Rima K Dhillon-Smith, Evaluating interventions and adjuncts to optimize pregnancy outcomes in subfertile women: an overview review, Human Reproduction Update, Volume 28, Issue 4, July-August 2022, Pages 583–600, https://doi.org/10.1093/humupd/dmac001

論文内ではステロイドによる免疫抑制(免疫過剰は着床に影響があると考えられています)、抗凝固療法(妊娠時には出産に備えて血が固まりやすくなります)、hCG等妊娠の維持に関わるホルモン、栄養療法、生活習慣の改善、着床前遺伝子検査、人工授精にかかわる手技/手法、子宮内膜損傷、婦人科手術といった因子が流産や死産にどのように影響を及ぼすかを検討しています。

複数の大規模研究が検討されていますが、いずれも介入により結果が見込まれる一方でデータの質の問題から確実とみられる手法は少ないようで、結果として流産・死産率を下げるのに明らかに有意な効果を持つとされるのが以下の4つのようです。

1.卵割期の肺移植に際してhCG(>500IU)を子宮内に投与すること。 これはOR 2.10(95% CI 1.59 to 2.79), 3 RCTs, 914 womenとある程度のエビデンスがあるようです。

2.移植前後のDHEA(ステロイドの一種)の投与。(OR 1.50 (95% CI 1.05 to 2.13), 6 RCTs, 650 women)

3.初回流産後の子宮内膜掻破。(OR 1.51 (95% CI 1.12 to 2.04), 6 RCTs, 1743women)昨今議論される手技ですが、次回以降の妊娠には良い影響があるようです。

4.胚を高濃度のヒアルロン酸(0.5 mg/ml)を含有した培養液で管理すること。(OR 1.33 (95% CI 1.11 to 1.60), 10 RCTs, 4066 women)

その他にも黄体期のプロゲステロン補充、何度も着床に失敗する方の過剰な白血球や血液凝固の過剰状態への介入が有望な要素として期待されているとのことです。移植手法や手技は有意な影響がないのも注目すべき点であるように思います。

こうしたことは臨床的な問題で私たちが日常生活で改善できる点はなにかないかと思われます。しかし意外にも生活習慣については食生活の違いも流産には明らかに有意といえるまでには影響しないようです。この点は普通の暮らしの中から良質なデータを得ることが難しい点も影響しているように思われますが、常識的な範囲であれば女性も過剰に気にする必要もないということでもあるので一つ安心材料かもしれません。

コメントを残す


The reCAPTCHA verification period has expired. Please reload the page.