先だって中国の上海にて、ヒト胚に対してゲノム編集を施したのちにIVF(in vitro fertilization)にて双子の妊娠に至ったという報告がありました。 用いられたCRISPER/Casは塩基配列をDNAの任意の部位に組み込むことができる画期的な技術で、 2010年代から頻繁に文献に登場するようになってきたものです。ゲノム編集は遺伝病や多因子による病気のリスク因子を修正する希望ともなるもので将来的な医療への応用が期待されますが、あくまで厳重な監視の下で慎重に研究を重ねた上で初めて用いられるべきものです。

 HIV感染への耐性のためということですが、善かれとはいえ複雑極まりない人間のゲノムに発展途上の技術を用いて操作を行ったことは安易に過ぎ、倫理的には批判されるべきものです。しかし一方で医療や生命科学に携わる研究の末席にあるものとしては、ただちに禁止すべきというのではなく、まず研究レベルで利益と危険性をしっかりと見極めるべきかと考えます。

 日本の医学研究に対する倫理的な審査やサポート体制は先進国の一角として非常に整ったものがあります。ですが、それが生殖医療や臓器移植など社会的に意見の分かれるものの場合には慎重にすぎて当事者に利益が届くようになるまで時間がかかりすぎる難点があります。例えば心臓移植は1960年代から30年近く凍結され、ようやく理解の得られてきた今日でも5年以上の待機期間があるなど、苦しんでいる患者当人に医療が届いているようには思われません。当サイトのテーマでもある精子提供などは、本邦では学会のガイドラインがあるのみで社会から目を背けてられているような印象すらあります。このような個人の活動もほとんど蟷螂の斧で、ややもすると好奇や批判の矛先を向けられてしまいます。適切な規制と透明性が担保された上で、責任ある研究や開発の成果が 患者さん当人に還元される社会になることを願ってやみません。


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