最近体外受精を希望される方からの希望が多くなりました。その場合カップでクリニックに提供精子を持ち込むかたちになります。そこで、実際には射精後の精子の質は時間経過でどの程度変化するものなのでしょうか。いくつか論文にあたってみました。

Natta Chomsrimek et al.(2017)は73人の精子を37度で保存し、30分、1時間、2時間、3時間、4時間とそれぞれ時間がたった後に運動性をコンピューター解析したところ、以下の図のように30分では有意な運動性低下はなかったものの1時間以上たつと20%以上の明らかな運動性低下がみられたとのことです。(Natta Chomsrimek et al. “Effect of Time between Ejaculation and Analysis on Sperm Motility.” Thai Journal of Obstetrics and Gynaecology, 16 (2017): 109-114.)

古い研究ではあるもののAmnon Makler et al. (1979)も保存温度が23度と室温で低めで測定開始の起点が射精後1時間という違いがありますが、図に示すような1時間刻みでの精子の運動性低下傾向を示しています。(Amnon Makler et al. “Factors affecting sperm motility. I. In vitro change in motility with time after ejaculation..” Fertility and sterility, 31 2 (1979): 147-54 . https://doi.org/10.1016/s0015-0282(16)43815-x.)

実際には時間がたったから単純に質が落ちる、というような簡単な話ではなく受精前にザイモート処理など選別して運動性を改善させます。その結果として実際上設備の整った医療機関に持ち込む分には問題にならない場合が多いと思われますが、どの程度の時間や精液の保存環境までが許容されるかという問題はついて回ると思います。また、当然ながら未処理の精子を用いるシリンジ法の場合の成功率に不利な示唆をする可能性があるのでその点はもう少し今後調べてみたいと思います。

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