iPS細胞は2011年に山中伸弥先生のノーベル賞受賞で有名になりました。4つの初期化因子(Oct4, Sox2, Klf4, c-Myc)のみから容易に幹細胞を作成することが従来は卵子を操作して得ていたES細胞に比べて画期的な発見と評価されたのでした。

しかし、それから10年以上たっても有用な実用組織は得られていません。辛うじて実験的に網膜や心筋組織を部分的に作成して効果があるかどうか確認している状況です。まして、正常に機能する精子卵子を作成してそこから挙児を期待するのは困難な状況です。

生殖補助医療はAssisted reproductive technologies (ARTs)といわれる今月から保険適応となり年齢制限はあるものの手が届き易くなりました。一方で精子の数や運動性による通常の男性不妊ではなく遺伝病により正常な遺伝子の乗った精子の得られない方に対する治療はあまりなく、根本的には体細胞から配偶子を作成しうるiPS細胞が一つの可能性で細胞ベースの研究が続けられています。今年に入って近年急激に発達したlow-input RNAやエピジェネティクスといった技術と組み合わせることでiPS細胞の生殖医療への実用化に目途がつけられることを示唆した報告(Chapter 10 – Applications for induced pluripotent stem cells in reproductive medicine, https://doi.org/10.1016/B978-0-323-99892-5.00006-2.)も出てきています。

個人的には現時点では遺伝子治療は未成熟で安全性に極めて欠けている技術と考えざるを得ないという状況ですが、確かにこの分野の進歩は2015年前後を境にして急激に進んでおり20年、30年後の応用を考えると希望でもあります。

 

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